いつかの今日のこと

子安浜風景/あじいる2号に寄せて
子安浜風景/あじいる2号に寄せて

こもれび荘というのが前には在って

そこに「マスターの椅子」と書かれた緑色のビロードが張られた椅子があった。

 

今日その椅子の上に

その人の骨が置かれた。

 

きらびやかな白い布に包まれたその一つの箱は

いつだったかは

穏やかな笑みを浮かべ

美味しい珈琲などいれてくれた。

 

古い写真を大切そうに財布に入れて持っていたけれど

骨以外のモノは何も残らなかった。

 

いっそ潔い

その人らしい死だったかも知れない。

 

目を腫らしてスタッフが教えてくれたのは

また別の

若い人の死だった。

 

私はその人のことも覚えていた。

やたらに駄洒落を言うのだが

半分は独り言のようなつぶやきであった。

 

閉塞感のあるこの寂しい世界を

記憶は銀河鉄道で旅するように巡る。

 

この今日も

また「いつか」の日になるでしょう。

 

*イラスト 浦島エレジーに寄せて