こもれび荘というのが前には在って
そこに「マスターの椅子」と書かれた緑色のビロードが張られた椅子があった。
今日その椅子の上に
その人の骨が置かれた。
きらびやかな白い布に包まれたその一つの箱は
いつだったかは
穏やかな笑みを浮かべ
美味しい珈琲などいれてくれた。
古い写真を大切そうに財布に入れて持っていたけれど
骨以外のモノは何も残らなかった。
いっそ潔い
その人らしい死だったかも知れない。
目を腫らしてスタッフが教えてくれたのは
また別の
若い人の死だった。
私はその人のことも覚えていた。
やたらに駄洒落を言うのだが
半分は独り言のようなつぶやきであった。
閉塞感のあるこの寂しい世界を
記憶は銀河鉄道で旅するように巡る。
この今日も
また「いつか」の日になるでしょう。
*イラスト 浦島エレジーに寄せて