春とラヂオ

春とラヂオ
春とラヂオ

鬼太郎の毛のように

危うい事態が迫ったなら

毛束がまっすぐ伸びて「きけんきけんきけーん」となったら

転ばず騙されず傷つけられず

もっと生きやすい日々を送れるのかもしれない。

 

ただし

世の中にはラヂオのアンテナより敏感に

あるいは過敏に

電波を拾ってしまう人もあるのだった。

 

突然「いたっ。いたたた」と眉間にしわを寄せる人だった。

(あぁ今何かが彼女に届いたのだ)と

 

一緒に戦う術なく

その人の手元作業は混乱を極めているので

苦しい痛みみたいなものが私にも伝わってくる。

 

部屋を変えることで

その痛みを柔らげることができる日もあるとのことで

時折誰もいない部屋で

一人立っていることもあった。

 

一方で伝播に悩む人もある。

自分の中で考えていることが

だだ洩れになるのだから

これは恐怖でしかないわけだ。

 

今日のような春の日

陽射しが気持ちいいな と思ったら

隣の人が「陽射しが気持ちいいですねー」と言った場合

「あっ 伝播した」と考える。

もう4月かぁと 思った瞬間

隣の人が手帳を開いて

「もう4月ですかー」と言ったら

「あっ また伝播した」と考える。

 

洩れる。

こう考えるとあちこち怖いことになる訳だ。

 

世界から何を受け取り

世界に何を漏らし

いこうか。

ゆく春だ。