ぽんぽこ

人間社会に迷いこんできた「ぽんぽこ」だ。

彼女に出会ってから密かに思っていた。

 

 

私は彼女の話す声や言葉が好きだった。

 

ちょうど、蝶々結びの正しさについて話している時のことだ。

普段無口な彼女が小さな声で話し始めた

死出の旅路に発つ人の装束には

いわゆる「おったて結び」が結ばれるので

縁起が悪いのだということだった。

 

そして彼女は短いリボンでさえ

上手に蝶々の形に結んで見せるのだ。

 

私たちに正しい蝶々結びを伝授してから

間もなく

彼女は他の土地へ移っていった。

 

効率と生産性

化け術を身につけた怒涛の人間模様の狭間で

 

その人は心を消耗しつくしているように見えた。

その一方で

とてつもなく透明な感覚を持ち合わせていた。

 

なので今でも私は

時々彼女が都会の原っぱで

仲間たち「ぽんぽこ」と月夜の晩には踊ったり歓談している気がしていて

できたらそこに

わたしも遊びに混じってみたいのだった。

 

*作品:FRAGILE 001