赤い目玉の猫

フェルトで出来た猫の人形は頭だけでしたし

表面はもう毛羽立っていて、ヒゲの糸などはほどけていました。

その猫を彼女はいつも腕に下げて歩いています。

 

「頭だけなので身体を作ってあげたい」

それがただ一つの願いです。

ヒゲも新しく糸で縫ってあげる予定だと話します。

 

まるまる1匹、他に新しく作り直す方法もありましたが

彼女にとっては意味がないことでした。

 

私はその猫と

それを大切にしている彼女のことがとても好きでした。

 

いつか時間のある日に、彼女と話をしながら

この猫のヒゲなど縫ってみたいと思います。

 

子どもの頃、遠足に行ったことがない女。

酷暑の陽射しの中も雨の中も立ち尽くしで働いて

肩にも腰にも湿布が沢山貼られている。

 

そうして黄色い猫の胴体のことなど大切に考えている。

 

なので私も一丁この胴体のことなども考えてみたいと思うのでした。

 

*断片スケッチ