歩く女@断片スケッチ

彼女が交わしたただ一つの約束事は「生きていること」だった。

 

人が歩いているときは、大抵行く先があり

その道はどこかへつながっているものだ。

 

その人はいつも歩いていた。

どんづまりの廊下を端から端まで行き来していた。

どこにもたどり着けないその道程を

彼女は無言で歩き続ける。

 

じっとしていられないほどの不安がこの人を歩かせた。

それは毎日続いた。

 

しかしある日、とうとう彼女は廊下を抜け、その先の場所へと歩みを進める。

歩幅は大きなものではなかったにしろ、着実なものだった。

 

数ヵ月後彼女に逢ったとき、

輝くばかりの表情を見せた。

 

痛みの末に生まれた真珠だった。

 

*断片メモ