猫の言い分

玄関を出ると猫がいた。

早朝、人気もない集合住宅の廊下に黒に白いブチのあるのがいた。

まだ若い猫だ。

か細い声で隣りの家の扉に向かって鳴いているのだが

隣家に猫はいない。

 

手を出してみると寄ってくるので人慣れしている。

抱きかかえると怖がってツメを立てるので、足元におろし

我が家の玄関をあけてみたら入ろうとする。

 

飼い主を見つけるまで、いざとなったらもう1匹くらい増えてもいいか。

安穏と思案していられるような立場でもない。

遅刻するー。勤労者は朝の10分に泣くのだ。

 

扉を開くと、我が家の犬がシッポを降りながら迫っていく。

猫は目を見開いてその様子を遠目に見ている。

迷い猫は犬が迫ってくるものだから威嚇をはじめた。

どうも収まりがつかない。

 

思い切って「ここか?ここの家なのか」と呼び鈴を鳴らした。

朝6時に呼び鈴を鳴らされること自体、かなり不審な感じだろう。

「廊下に猫がいるのですがお宅のではないですか」

しばらく沈黙が続き、扉は固く閉じられたままだ。

うわぁ。これ変な人だと思われておしまいか…と思っていたら

扉があいて「ヨウちゃん。ヨウ」と女性が呼ばわりながら出てきた。

飼い主が扉を開いた瞬間、外に出てしまったらしい。

「ヨウ」という名の猫は無事に飼い主のもとへと戻り、私は遅刻をせずいつもの電車に乗った。

 

電車の中で「少しは猫の言いたいことも分かるというべきか」などと考える。

 

 

うちの猫がまだ小さかった頃、むささびのように身体を大きく開き

犬に向かって飛び掛っては小さな牙をむいていた。

そのたび猫の目に向かって「ダメだよ。痛いんだからダメ!」と呼びかけても

一向に言葉が入っていく様子がなく

猫とのコミュニケーションは無理だと断念したこともあった。

 

それが、いつの間にか猫のことも分かるようになってきた。

分かるようになったというよりも

明確に伝えてくるようになったと言える。猫の指示出しだ。

「お前、お前に言ってんの」「こっちこっち。こっちきな」とか

「いいから仕事やめちゃってオレと遊べよ」などなど

 

かなり強引なやらかしようをする。

 

 

そして時々はわたしが言った言葉に

「合点承知」という動きをすることもある。