闇に灯かりを点す人

お袖をつかんで 吉水岳彦 著
お袖をつかんで 吉水岳彦 著

相手に初めて出会った、その日を覚えているだろうか。

覚えているとしたらそれはどんな場所で

その相手とはどんな人だろうか。

 

2009年10月、もやい「こもれび荘」

わたしは吉水岳彦という人に出会う。

佇まいが美しい人であった。

思わずシャッターを押したのを覚えている。

法要のために訪れていた僧侶だった。

 

それから時を経て2011年。

3.11。

震災直後、当時の「もやい」スタッフが東北に入り

石巻ですでに炊き出しを行っている吉水さんに出会う。

*その時入ったスタッフは東北被災地の中間支援センターの施設長となって活動を続けた。

 

そして日をまたぎ

南相馬から知合いが訪ねてきた日

「こもれび荘」に吉水さんが居合わせた。

それまで笑顔で話していた女性が

吉水さんの墨衣を目の前に

突如突っ伏して泣いたのを覚えている。

 

理屈ではなかったと思う。

慟哭であった。

 

それが一つ

私の中で宗教が持つ大きな救いのような意味合いだと思った。

 

2019年11月11日。

「光照院」の住職となられた。

山谷地域に江戸時代から在るそのお寺は

差別とは切り離せなかっただろう歴史を抱え

闇間に点る灯かりのような存在であっただろうと思う。

 

「ひとさじの会」として夜回りもされ

また、子ども食堂も敷地内に建てられ活動をされている。

 

何よりもここには山谷玉三郎をはじめとした「あうん」の仲間も眠れば

もやいの仲間も眠り

また、今現在、一緒に活動をしているおじさんたちが

「俺も死んだらあそこに入るから大丈夫なの」と

拠り所にしている特別な場所なのだ。

 

 

 

草の葉陰に宿る羽虫と森に眠る鳥の生命にも

灯かりが溢れ充ちてゆくようにと

祈るような気もちで描かせていただいた。

 

 

*お袖をつかんで

    吉水 岳彦・著  装丁画